2018年2月22日木曜日

20180217 S04TSG 2

2月17日土曜日に行われたシャルケ対ホッフェンハイム戦の観戦記の後半になります。試合を見返す際にお読みいただければ嬉しいです。

後半に際しての変更点

前半、シャルケの守備にビルドアップを妨げられ続けたホッフェンハイムですが、失点直後から徐々にボールを前線へ供給できるようになってきます。後半開始からはクラマリッチを一列上げて前線を3枚にし、中盤中央にアミリとグリリッチュを置く1-3-4-3のような形を取って来ました。
対してシャルケは、ディ・サントが一列上がることで前線を三枚にしてホッフェンハイムの最終ラインと数的同数を作り出します。中盤はスタンブリとゴレツカが中央で並ぶ形になり、ホッフェンハイムの3トップに対してケーラー、ナスタシッチ、中央にナウドとこちらも同数を作り出していました。表記するとこちらも1-3-4-3でしょうか。
個人的にはテデスコ監督が選手の配置を変えてきたのは少し驚きました。前半、2点目を上げた前後まで、良い形でゴール近くにボールを運ばれることはほとんどありませんでしたし、中盤中央を平行に並べることは、一本のパスでダブルボランチ二人共が無効化される危険性があるのではないかと思えたからです。テデスコ監督の意図はおそらく、前線を増やし、前線、中盤、最終ラインで数的同数をつくることで、各選手に自分のプレスをかける相手を明確にします。敵のビルドアップを牽制、誘導するのみでなく、ボールを奪うことが出来るようなボールへのアクセスを作りたかったのだと解釈、推測しています。この狙いをどう解釈するかは、皆さんの意見を聞いてみたい部分です。
後半は両チームともに選手の交替と、配置の変更を何度か行ってきたので、時系列で見ていきたいと思います。

後半開始 - 58分前後

ホッフェンハイムのビルドアップに対するシャルケの守備

  1. 53:59- バウマンとしては最終ラインに繋いで後ろから組み立てたいですが、シャルケの前線三人が、フォクト、ヒュプナー、ビチャクチッチについているため繋げず、左サイドのハーフウェーライン付近にいたカデリャーベクにパントキックでつなごうとしますがミスキックでボールを失います。

ホッフェンハイムはハーフスペースを狙う

  1. 56:20前後 シャルケのコーナーキックをホッフェンハイムがマイボールにした流れからのシーンです。セットプレイ後という状況ではありますが、スタンブリが空けたハーフスペースにフォクトから縦パス(Vertikalpass)が入ります。

58分 - 82分

57:36にはビチャクチッチに変えてジュリが入り、これに伴いホッフェンハイムは3バック(Dreierkette)から4バック(Viererkette)に変更、ビルドアップでの数的優位を目論みます。シャルケはディ・サントを前半のようにグリリッチュをケアできる位置にポジションを取ります。

ウイングのツバーからハーフスペースへの斜めのパス(Diagonalball)

  1. 61:19- ホッフェンハイムは4バックに変えたのですが、右SBのツバーは中よりのハーフスペース、ゴールに近い低い位置にポジションを取りバウマンからボールを引き出します。ジュリがゴレツカを自分に食いつかることで、ツバーからハーフスペースへの斜めのボールを入れるコースを創出します。
66:44にホッフェンハイムは3枚目のカードを切ってきます。アミリに変えてルップを投入します。

ウイングに流れたウートからハーフスペースへの侵入

  1. 69:22- ウートがナスタシッチの背後を取り、サイドでスローインを受ける。ナスタシッチが出ていった事により、カリジューリはスペースを埋める動きでボールへのプレッシャーがかかっていません。ウートからボールを預かったクラマリッチが左足で反対側のハーフスペースに走り込んできたカデリャーベクへクロスをあげます。密集しているボールサイドから大外にクロスを上げることでブロックの外側で競り合いを優位に行える狙いと、左右の揺さぶりでDFのマークのズレを生みたいという狙いが見えます。
  2. 73:10- ウートからスタンブリの背後に走り込んだジュリへの斜めのボールが通る。

ツバーの前進の進路とクラマリッチのライン間でのポジション取り

  1. 77:07- インサイドハーフのルップがCBのヒュプナーとSBのカデリャーベクの間に降りてボールを引き出し中へ運ぶことで、ピアツァとシェプフを自身に引きつけ、逆サイドのツバーにサイドチェンジ。ツバーも中へのワンタッチコントロールでプレッシャーに来たカリジューリを剥がすことに成功します。そのまま、中へと進路を取り相手のダブルボランチを食い付かせにかかります。スタンブリとゴレツカの間にクラマリッチがライン間で顔を出したので中を通し、外に展開しますが、その時点までシャルケとしてはボールへのアタックを一度もかけられぬままボールを出し入れされズルズルと後退を余儀なくされる。結果、プレッシャーのない状態でカデリャーベクが中にボールを送り込むことができました。クラマリッチは一度ナウドとナスタシッチの間に走り込むフェイクを入れて進路をその一つ外側のナスタシッチカリジューリの間に変更、うまいポジションの取り方でした。

シャルケのボールへアタックする守備

  1. 71:17- ヒュプナーにエンボロがプレッシャーをかけてマイボールのスローインを得るシーン。ホッフェンハイムはゴールプレーヤーのバウマンを経由して右から左へとサイドを変えたのですが、それにもかかわらず、ボールへのプレッシャーがしっかりとかかっており、サイドでボールを引き出そうとしていたカデリャーベクにもシェプフがアタックに行ける位置にいます。ボールへのアタックをしっかりとできていたシーンでした。

82分 - 

シャルケは決勝点をあげたエンボロを下げてハリトを投入。このタイミングでホッフェンハイムはフォクトとグリリッチュがメモを確認、ヒュプナーを最前線に上げて、パワープレーに移行します。

前進するドリブルで自らパスコースを作り出すフォクト

  1. 84:02- フォクトの前進からダブルボランチの間にパスを通すシーン。フォクトがボールを受けた時点でサイドチェンジに備えてゴレツカは自分たちの左サイドへ意識が行っています。そのため中央、自分とスタンブリの間にポジションを取っていたジュリへの意識が遅れたのではないかと思われます。縦に通すフォクトのパスのスピードも出色ですが、彼が受けたときのコントロールの進路と速度でサイドチェンジを匂わせて中のパスコースを作り出した点がよかったと思います。

終わりに

シャルケの中盤菱形の守備が機能した前半と、ホッフェンハイムが空いているレーンに素早く展開を移動させて攻撃を試みた後半、非常に見応えのある試合でした。
個人に言及するなら、対人の強さが光ったナウド、前半のスタンブリのカバーリング、ツバーの組み立ての進路決定などきりがありませんが、中でも特に印象に残っているのはディ・サントが菱形の頂点として自らのポジションを見失うことなくプレーしていた点です。ボール、相手、味方、ピッチ上の場所などで取るべきポジションは試合中変化し続けますが、非常に良く行っていたと思いました。

最後になりますが、試合が始まる前には明かりが落とされ、サポーターの光で埋め尽くされたスタジアムはとてもきれいでした。

2018年2月20日火曜日

20180217 S04TSG 1

シャルケのテデスコ監督とホッフェンハイムのナーゲルスマン監督の対決をゲルゼンキルヒェンのヴェルティンス・アレーナで観戦してきました。前半後半に分けて試合分析を書いていきたいと思います。

試合前の情報

昨シーズンの後半戦は毎試合欠かさずチェックしていたナーゲルスマン監督のホッフェンハイムですが、今シーズンはほとんど試合を見れていませんでした。テデスコ監督のチームもしっかりと試合を見れたのは初めてでした。
ドイツで増えつつある新しい世代の監督の代表格として挙げられるのがナーゲルスマン監督。今シーズン前半戦はヨーロッパリーグもあったせいか、昨シーズンほどの成績は残せていません。週の半ばに試合が組まれるというスケジュールに加え、HV(Halbverteidiger)のズーレと6番ポジション(Secher)のルディというビルドアップ(Spielaufbau)の核となる選手を失ったことも大きな影響を及ぼしていると思います。更には、ナーゲルスマン監督がKicker誌のインタビューで語っていたことから推測するに、彼もトゥヘル監督と同じくマインツ大学シェルホルン教授のディファレンシャルラーニング理論をトレーニングを計画する際に念頭においていると思われます。週の半ばに試合が組まれるというスケジュールのためにこのアプローチが機能しているのか、回復に時間を割かなくてはいけないことがチーム作りにどのように影響しているのかは、僕自身もう少しこの理論に関して理解を深めていきたいと思います。
対するテデスコ監督は「シャルケ」というドイツ有数のビッククラブを率い、ヨーロッパリーグを狙える位置につけています。Spielverlagerungに掲載されている彼のインタビューを読み、ぜひ彼のチームの試合を観てみたと思っていました。

両チームのラインナップ

シャルケは中盤菱形(Raute)の1-4-4-2のフォーメーションで試合に入ります。5レーンの両サイド(Außenbahn, Flügel)は基本的には最終ラインのサイドバックのみ、中央とハーフスペース(Halbraum)に人を集めた配置です。菱形の底、6番ポジションは元トッテナムのスタンブリが入り、頂点にはディ・サント、両インサイドハーフはゴレツカとシェプフでした。
対して、ホッフェンハイムは1-3-1-4-2で、両ウイングバック(Flügelverteidiger)は守備時には最終ラインで5バックを形成します。6番のポジションはグリリッチュ、3バック(Dreierkette)の右にはビチャクチッチ、右のウイングバックはカデリャーベク、インサイドハーフはクラマリッチとアミリ、前線はウートとサライです。

以下に幾つかのシーンをピックアップします。表記は分:秒になります。

前半、シャルケの菱形の中盤が守備で非常に機能していた

  1. 0:26 - 0:34 ホッフェンハイムの攻撃のビルドアップ、左のタッチライン際に開いたヒュプナーからダイレクトで斜めのボールがアミリ入りますが、6番ポジションのスタンブリがアミリからボールを奪ったシーン。
  2. 17:55 - 18:30 ホッフェンハイムはゴールプレーヤーのバウマンから最終ラインへ繋いで攻撃を組み立てていくシーン。シャルケは相手のビルドアップを自らの左サイドへと誘導し、サイドに人をかけて奪おうとします。
  3. 19:13 - 19:26 ホッフェンハイムのバウマンからフォクトに繋いで組み立てるシーン。バウマンに対してディ・サントがプレッシングに行ってしまったため、グリリッチュにフリーでボールをつながれますが、菱形の底にポジションを取っているスタンブリが前に出てボールへのプレッシャーをかけに行きます。同時にシェプフはスタンブリの空けたポジションを念頭にボールが中央のクラマリッチに出た瞬間にアタックしてボールを奪い返します。
  4. 22:18 - 23:07 シャルケの守備陣系がホッフェンハイムには相当ストレスになっていたのが伺えます。フォクトにはボールに触らせず、左右のHVにボールを入れさせます。中央とハーフスペースには階層的に人を配置しているため、ヒュプナーはパスを斜めに入れることができず、縦にロングボールを入れる以外の有効な選択肢が見つけられませんでした。
  5. 28:55 ホッフェンハイムのスローインに対して、全体がボール中心に密集したポジションを取りつつ、中盤の菱形も保たれています。
  6. 29:36 フォクトからグリリッチュに斜めのパスが入ります。菱形の頂点にいるディ・サントの背後でボールを受けることに成功したグリリッチュですが、コントロールが乱れたところをゴレツカとディ・サントに挟まれてボールを失います。

前線の2枚、エンボロとブルクシュタラーのポジションがホッフェンハイムのビルドアップのストレスに

中盤菱形で取り上げたシーンとも重複しますが取り上げます。
  1. 18:05- バウマンからヒュプナーにボールが出たシーンではエンボロがボールへのプレッシャーをかけ、ボールに遠い方のブルクシュタラーはフォクトをしっかりとマークしています。
  2. 18:22- 1のシーンから続きになりますが、バウマンがボールを持っても前線二枚でフォクトを挟み込むように中央にポジションを取り牽制しています。
  3. 22:31- 同じように二人でフォクトを挟み込んでポジションを取ります。
以上に挙げた点から、前半シャルケはホッフェンハイムの攻撃の組み立てにストレスを与えて、良い形で前線へボールを運ばせないことに成功していました。中盤は距離感よく菱形に配置されていることにより、中央とハーフスペースへのパスコースが見つけにくく、HVがボールを持って前進しようとしてもサイドへ誘導し数的優位を使ってボールを奪っていました。
シャルケの二点目のシーンも、フォクトがエンボロにパスをひっかけてしまい無人のゴール前でボールを失ってしまったため(27:37)ですが、組み立てがうまく行っていないストレスがフォクトの判断を誤らせた可能性が高いと思います。

しかしながら、試合中適切なポジションを取り続けるにはボールの位置、敵の位置、味方の位置、ピッチ上での位置の4つの要素を常に考え続ける必要があり、ミスなく行うことは不可能です。

スタンブリの空けたスペースを使われる

  1. 30:08- シェプフが右のウイングでボールを失います。ボールを奪ったアミリは敵のゴールには背を向けている状態なので、スタンブリは周囲の状況を確認してからプレッシャーをかけに行きます。その空けたスペースをクラマリッチに狙われ、フォクトからのパスを引き出します。仮にクラマリッチがターンしていたら、或いは更に高い位置のウートにボールが渡っていたら危険になり得たシーンでした。
失点を受けてホッフェンハイムはビルドアップの際にグリリッチュの脇にアミリやクラマリッチが降りてきてボールを引き出そうという工夫を行ってきます。フォクトという優秀なパサーが最後尾にいて一本のパスで高い位置まで前進することができます。彼のパッキングレート(PACKING-RATE)はドイツでも相当高いはずです。パッキングについてはリンクの動画に詳しく説明されています。そんな彼がいるにも関わらず、ボールを前に運ぶためにインサイドハーフが低い位置に降りてこなければならないのはホッフェンハイムにとってはマイナスですし、シャルケの守備組織がよく機能しているが所以です。

ホッフェンハイムの攻撃

  1. 40:39- シュルツが左のウイングでシェプフを剥がしスタンブリを自分にひきつけます。それによりウートがスタンブリの背後をつき、ハーフスペース、中盤とディフェンスのライン間でボールを受けることに成功するのですが、ナウドがしっかりと寄せており、中への進路を絶たれ外への迂回を余儀なくされます。
  2. 42:21- アミリが跳ね返されボールを拾って左へサイドチェンジ(Seitenwechsel)します。これにより、シャルケは横のスライドを強いられ、中盤の各選手間の距離が少し間延びします。タッチライン際でボールを受けたクラマリッチはそのまま同じレーンのシュルツに預けて、中へつまりより内側のレーンであるハーフスペースへ侵入してボールを受けます、相手の6番のポジションの脇を狙ったプレーですが、スタンブリがしっかりとスライドしてドリブルを外に誘導、コントロールが大きくなったところを掻き出されます。昨シーズンからホッフェンハイムによく見られるウイングで相手をひきつけて空いたハーフスペースに侵入する形でしたが、スタンブリのカバーが良かったです。
後半分は改めて書きたいと思います。